離散 Morse 理論紹介~その1~
これは数学 Advent Calendar 2016 18 日目の記事です。遅れまくってスミマセンスミマセンスミマセンスミマセン。。。 17 日目は snuffkin さんによる はじめての圏論でした。19 日目は kobae964 さんによる モナドTipsについて です。
離散数学、最近ではコンピュータグラフィック、データ分析でも見ることがある Discrete Morse 理論を軽く眺めてみようと思います。*1多様体に対しての morse 理論は今回は解説しませんが、詳細については例えば [Milnor] などを参考にしてください。
離散 Morse 理論では、与えられた CW 複体の homotopy 型を変えずに cell の個数を減らすことを目標とします。cell の数が減るということは、境界準同型
を行列表示した際の行列のサイズが小さくなることを表し、データの位相的な性質を求める際の計算量が削減できるわけです。また、具体的な cycle, cocycle の計算も可能になったりと、 みんな happy(^^)
CW 複体の正確な定義は述べませんが、胞体複体であってよい位相を持つものと考えておいてください。*2。
簡単のために以下では対象としては単体複体とします。(あくまでも対象は。最終的に出来上がるものは CW 複体)。
以下、 K と書いたら単体複体とします。
Morse 関数と臨界点
まずは定義を見てください。
Def(離散 morse 関数)
は任意の p-単体 に対し
の 2 条件が成立するときに Morse 関数という。
Def(critical)
を morse 関数とする。 はつぎを満たすとき p-次の critical simplex(CW 複体のときは critical cell) という。
K の critical な p-単体の個数を と書くことにする。
例:
左は Morse 関数ではありません。0 の値を振ってある edge で上の条件 2 が、5 の値を振っている点で条件 1 が崩れているのがわかります。
一方、右は morse 関数の例になっています。その critical 単体は 0 の値を振ってある頂点と 5 の値を振ってある edge です。
例:
単体複体 K 上の関数 f を各単体 に対し、その次元を対応させる関数:
とすると、これは morse 関数になり、全ての単体を critical simplex としてもつ。
定義の妥当性
この定義、どういうことを考えているのでしょうか。 2 次元の曲面で、指数が 1 の臨界点を持つものを考えます。(ここでいう臨界点や指数は可微分の意味です)いわゆる hyperbolic point です。下の図での原点が対応する点です。
さて、可微分の場合の morse 関数ではこの 0 よりも少し小さいところから、稜線をたどることで 1 handle を図形に張り合わせます。
その稜線が離散における critical な単体に対応するわけです。端点にいくほど値が小さくなり、face の方向に進むと値が大きくなります。
今日の Main Theorem
さて、Morse 関数があると、その臨界点から多様体の分解がえられました。離散の場合でも同様の結果が言えます。
Thm
K を単体複体で f を K 上の morse 関数とする。このとき K は p 次元のセルを 個持つ CW 複体と homotopy 同値
可微分の場合と同様、weak(および strong) morse 不等式も成立します。
Cor(Weak Morse Inequality)
K を単体複体で f を K 上の離散 morse 関数とする。このとき
ここで、 は K の p-次 betti 数。
とくに
Cor(Strong Morse Inequality)
K を単体複体で f を K 上の離散 morse 関数とする。各 p に大して次の Strong Morse 不等式が成立する
計算例
さて、先の定理からなにやら離散 Morse 理論が単体複体の homotopy type を計算するのに使えそうな気がしてきました。最後に一つの例を紹介します。
非連結グラフのなす複体
を完全グラフ の spanning subgraph、すなわち全ての頂点を持つ subgraph、のうちで非連結なものの集合とします。
を の spanning-subgraph とします。 もし かつ とすると、 が成立します。こういう性質を単調減少性と言います。
一般に単調現象なグラフ不変量があると、単体複体を構成することができます。今日は に対し、単体複体 を得てみます。具体的な構成は次です:
が k-単体 G は k+1 個辺を持つ
先の、単調性からこれが単体複体であることがわかり、k-単体 G の各 face は non trivial な spanning subgraph になっています。
この は次の homotopy 型を持つことが discrete morse theory を用いて示されています。
定理
は 個の (n-3)球面のウェッジ和とホモトピー同値。
証明は、morse 関数を構成することによります。*3
最後の例と関連して、1-連結グラフ、2-連結グラフの cohomology を、そしてその具体的な生成元を求めることも可能ですが、それは Vassiliev による finite type knot invariant の構成と関連してきますが、それはまた後日。
- [Milnor] Milnor, John (1963). Morse Theory. Princeton University Press.